眠らせ森の恋

「そりゃ、さぞ、喜んで話してくれたろうな」

 普段、若い子たちはみな煙たがって、彼女の話には、はいはい、と頷いているだけだからだ。

 つぐみは笑い、
「社長でもお局様とか言うんですね」
と言う。

「みんなが言ってるから、ついな。
 っていうか、あの人、俺にも平気で怒鳴りつけてくるぞ」

 俺が子どもの頃から居るからな、と言うと、つぐみが笑う。

「嬉しいんですね、それが」

 俺は嬉しいのか?

 ……そうなのか?

 まあ、社長になったら、怒鳴りつけられることもないからな。

 初めて知ったな、自分の感情なのに、と思っていた。

「……やっぱり呑むか」
と言うと、はいっ、とつぐみは実に嬉しそうに言う。

 可愛いが、これって、俺にさっさと寝てくれって思って笑ってるわけだよな。

 機嫌良くキッチンに入っていくつぐみの後ろ姿を見ながら、吹き矢で撃ってやろうかと思った。