ドアを開けた瞬間、むわっとした空気を感じて、あ、と声を出していた。

むわっとした空気というのはつまり、その部屋に人間が存在して、生活を営んでいたというにおいや温度のようなもので、それはどういうことかというと――。

むくんだ足をパンプスから抜き取って、あたしは部屋に上がった。


「ドラクエ?」


なんでもないふうを装って、寝癖でぼさぼさの後ろ頭に声をかける。


ワンルームマンションの狭い部屋の中、テレビにかじりついてコントローラーを握りしめていた圭が、嬉しそうな顔でふりかえった。

しっぽをふる犬みたいだ。


「おかえり。よくわかったねー、そうー、ドラクエー。新しいのが出てさー、朝から並んじゃったよー」


そういえば今朝、圭はめずらしく早起きして、あたしより先に部屋を出て行ったんだった。


どういう風の吹きまわしかと思っていたら、こういうことか。