落ち着きを徐々に取り戻していけば、周りの音がよく聞こえるようになっていた。

片付けをする音、社員さんたちの賑やかな笑い声。

私は思い出したように、ハッとする。



「手伝わなきゃ…」



私が立ち上がろうとすると、手を捕まれた。

驚き、先輩の方を振り返る。



「いいよ。休んどけって」



優しくそのまま、下に腕ごと引っ張られて、私は座らされた。

そして、笑うでもなく、怒るでもなく、ただ真顔で私を見る。

手は、なかなか離れない。



「頑張り過ぎだって、少しは休め」



そんなつもりは…と誤魔化しながらも、従うしかない。

なぜなら、真剣な眼差しを送られたから。

こんな顔を、異性に向けられたこと、人生の中で一度もない。

だから、少しびっくりしてしまった。

だから。従わざるを得なかった。

のだと、自分自身に言い聞かせる。