眉を下げながらも、笑顔で

手を振ってくれた流羽と

別れた翌日…

流羽は、指輪を見て

何度も溜め息をついて、

浮かない表情だった。

気にはなるが、昨日の

別れ際の流羽の表情がチラついて

一歩を踏み出せないでいた。

その日の夜、香月から

1通のメールが届いた。

『流羽が、桐生と行った

緑丘公園の夢見たみたい。

誰かはまだ分かってないけど、

そこで、大切な人と約束をして

指輪を貰ったって…

これって、あの日の事

なんじゃないの?

流羽は、思い出すキッカケに

なるなら行くって言ってる。

当日はあたしと行くつもりで

いるけど、桐生が行った方が

きっと…

ううん、絶対思い出すと思う。

だから、今度の日曜日

駅前に行ってやって!

頼むね、桐生!』

今日1日様子がおかしかったのは、

その夢のことを考えてたからか?

ってか、その夢…

あの日の俺たちじゃねーか。

思い出せる保証なんてねーけど

足踏みしてる場合じゃねーよな。

流羽は思い出そうと

頑張ってんだから。

もし、思い出せなくても

それは俺だって、言ってやる!

そして、迎えた日曜日…

目の前にはポカンと口を

開けて、立ち尽くす流羽がいた。

立て続けに香月から、

俺と行けとメールが来たらしく

困惑している流羽は、

1人なら行かないと言い出した。

ここで、はいそうですかと

帰る訳にはいかないし、させない。

何が何でも連れて行ってやる。

それが、俺のエゴだとしても…

そして、俺のゴリ押しに

負けた流羽は、俺に手を

握られたまま、ついて来た。

目的地の最寄駅まで、

ずっと外を眺める流羽は、

いもしない彼女に申し訳ないと

思っているのか、一言も

話そうとしないし、目も

合わそうとしない…

けど、俺の手を振り解こうとは

しないでいてくれて、

俺は内心、ホッとしていた。

多少、複雑ではあるが、

ここで止まる訳にはいかねーんだ。

そんな気持ちを込めて、

流羽の小さな手を、ギュッと握る。

一瞬、身体をビクつかせたが、

それでも流羽は俺の手を離そうとは

しなかった。

それが、どれだけ俺の気持ちを

奮い立たせたかは、

思い出したときにでも

話してやろう…

辿り着いた緑丘公園のベンチに

腰を掛けた俺達。

隣でキョロキョロとして

落ち着かない様子の流羽は、

きっと指輪の送り主…

約束をした奴を探してるんだ。

けど、そんな奴はいないっての。

だって、それは流羽の横にいる

俺なんだからな…

遠くを見つめながら、ポツリと

小さく呟く…

「どんな約束をしたんだろう」と。

答えにたどり着けないでいる

流羽にヒントを出してやる。

未来の約束をしたんだと…

そして、俺は流羽の右手の薬指に

はめられた指輪をそっと

抜き取って言った。

指輪の内側に彫られた言葉を…

「ずっと一緒に」と。

首を傾げながら、

「ずっと一緒に…」と

同じ言葉を反復する流羽が

指輪を見つめて、そして…

涙を溢れさせて、俺を見つめ、

俺の名を呼んだ。

そして、俺の胸の中で

必死に縋り付きながら、

泣き続ける流羽を

抱き締めながら「おかえり」と

言った。

涙を流しながら…

それでも懸命に笑って

「ただいま」と言う流羽の笑顔は

文句なしに可愛くて、綺麗だ。

傍に居ても、抱き締める事も

名を呼ぶ事も出来なかった

俺の我慢は限界だった。

でも、やっと…

この手で抱き締める事も

名を呼ぶ事も出来る。

溢れる気持ちをそのままに、

俺は流羽にキスをした。

ここまで凄く長かった…

たった数日が、俺には

何年も離れていたかのようで、

苦しかった。

そんな本音を聞いた流羽も、

自分もそうだったと言って

頬を染めて笑った。

俺だけに向けられる、

この笑顔を、絶対に離さないと

俺は心の中で、新たに誓った。