慌ただしいマネージャーの
仕事を終えて、璃子と
学校を抜けると…
暗闇に大きな2つの影。
目を凝らして見ると、
桐生くんと日向くんだった。
「おつかれ」
「お疲れ様ー!」
思わぬ登場に、唖然とする
わたし。
もしかして、
待っててくれてたのかな?
「お疲れー!
でも、流羽が居てくれたお陰で
全然疲れてないけどねー」と、
わたしの肩を抱く璃子は、
どこか嬉しそうで…
わたしも自然と笑顔になる。
「そんなことないよ!
部員の人達にも、璃子にも
沢山手伝ってもらっちゃったし…
ついていくのが、やっとだった」
つい溢れた愚痴に、
桐生くんは、はっきりとした声で
「そんな事ねーよ、
久し振りにしては、よく
気がついてた。
頭では忘れてても、身体が
覚えてたんだろ」
と、頭をポンポンして
笑った。
ドキドキ鳴る心臓を
落ち着かせながら、
どうして、桐生くんに
触れられると、こんなに
ドキドキするのかを
考えていた。
特別な友達に、こんな
胸が痛くなるくらいに
ドキドキするものなのかな?
病室で見た、悲しそうな顔は
胸がギュッとなって
苦しかった。
でも、優しく笑う顔は
ドキドキして、落ち着かない。
この感情の名前を
わたしは知らない。
「じゃあ、璃子っちは
俺が送ってくから、
流羽ちゃんは、翼に送って
もらってねー」
そう言って、わたしと桐生くんを
残して、足早に去って行く2人。
声をかけることも出来ないまま
呆然と見送った。
「じゃあ、俺らも帰るか。
ホームまで送る」
「え!?そんな、いいよ!
家までの道は、分かるし
1人で大丈夫だから!」
歩き出している桐生くんの
腕を咄嗟に掴んで、
わたしは断った。
すると、振り返った桐生くんは
一瞬黙ってわたしを見つめ、
「駄目、送る」と、
わたしの言葉一蹴し、
歩き出した。
その後ろ姿を呆然と
見つめて固まった、わたしを
振り返り…
「何してんだ、行くぞ」と、
優しい眼差しで見つめてくる
桐生くんに、わたしはまた
ドキドキした。
桐生くんだけに反応する、
この感情に動揺しながら
わたしは、桐生くんを
追いかけた。
ホームまでの道を歩きながら、
そっと桐生くんを見つめる。
その時、桐生くんの右手の
薬指に光る、シンプルな
シルバーリングが目に入った。
それを目にした瞬間、
胸がチクっと痛んだ。
彼女いるんだ…
そりゃそうだよね。
こんなにカッコいいんだもん、
居て当たり前だ。
なんで、わたし
落ち込んでるんだろう…
「どうかしたか」
不意に声を掛けられて、
ビクッとした。
咄嗟に、思った事を
そのまま伝えた。
「桐生くん、彼女いるんだね」
わたしは、薬指の指輪を指して
言葉を続けた。
「彼女さんに悪いから、
ここまででいいよ!
ホームもすぐそこだし!」
わたしが笑顔で、そう言うと
桐生くん、少し切なそうに
笑った。
「いるけど、相手は
そう思ってない」
「え…?喧嘩でも、してるの?」
そんな切なそうな顔になるほど、
その人の事が好きなんだ…
どんな人なんだろうと
すごく気になった。
「どんな人なの?彼女さん」
わたしの質問に、桐生くんは
空を仰いで…
「どんなことにも一生懸命で、
自分の事より、周りの人間に
優しい…
弱そうに見えて、実は強い
だからこそ守ってやりたい」
そう言って、優しい顔をする
桐生くん。
本当に、その人のことが
好きなんだって、伝わってくる。
「素敵な彼女さんだね…
きっと、桐生くんの気持ち
伝わってるよ…
大丈夫だと思うよ?」
そんな事を言いながら、
わたしの胸は、キリキリと
痛んだ。
わたしとは、正反対な人。
会ったことはないけれど、
本当に羨ましい…
こんなに想われてて。
わたしも、こんな風に
誰かに想われてみたいな。
それが、桐生くんみたいな
優しい人ならいいのに…
!!!!
なに、考えてるの!わたし…
これじゃあ、まるで
桐生くんが、好きみたいじゃない!
違う!違う!
好きなんかじゃ…
……好き
そっと、桐生くんを
見上げて、夕闇に包まれた
その横顔に、胸がギュッと
掴まれる。
ああ…
そうか…
桐生くんにだけ、ドキドキするのも
目が合っただけで、身体が
熱くなるのも…
桐生くんを好きだからなんだ。
分かった瞬間に、失恋って…
でも、人に対して…
特に、男の子に対して
こういう気持ちになれたのは、
生まれて初めてだから、
想いが届くことはなくても、
届けられなくても…
好きにならなければ良かったなんて
思うことは、きっとない。
大切な人には、幸せでいて欲しい。
いつも笑っていて欲しい。
その瞬間を、一緒に過ごす事が
出来なくても…
「大丈夫…
きっと、彼女さんに
伝わってると思うよ…」
こんなに想って貰えてるんだもん。
きっと、桐生くんの気持ちは
届いているよ…
無意識に、自分に、はめられた
指輪を包み込んで、俯いた。
その瞬間、ポタポタと溢れる
涙に気づいた、わたしは
俯いたまま、声を掛けた。
「もう、ここでいいよ。
送ってくれて、ありがとう」
桐生くんに、目を合わせないまま
足早に去ろうとした、わたし…
グイッ…
「え…?」
強い力に、引き寄せられて
そのままの勢いで、
桐生くんの胸に、
倒れこんだ、わたしは
軽くパニック状態で…
わたしを包み込むように、
回された温かい腕に、
鼓動はどんどん高まって、
身じろぎをしたけど、
それが、解かれることはなくて
更に、鼓動は加速していく。
彼女さんがいるのに、
どうして、こんな事するの?
ドキドキが嫌な音を立てて、
胸をきしませる。
「桐生くん…離して」
力を込めて、もがきながら
必死に言葉を紡いだ。
頭上から、聞こえた声は
低くて、どこか切なげだった。
「春瀬、少しだけ
こうさせてくれ…頼む」
その声に、腕の中から
見上げると…
その瞳は、切なく揺れていて
桐生くんらしくない、
どこか頼りない…
今にも消えてしまいそうなほど
儚く見えた。
だから、わたしは
キリキリと痛む、気持ちを
頭から切り離して、
腕が解かれるまでの間、
温かな腕の中で、
桐生くんの温もりを
感じ続けた。
仕事を終えて、璃子と
学校を抜けると…
暗闇に大きな2つの影。
目を凝らして見ると、
桐生くんと日向くんだった。
「おつかれ」
「お疲れ様ー!」
思わぬ登場に、唖然とする
わたし。
もしかして、
待っててくれてたのかな?
「お疲れー!
でも、流羽が居てくれたお陰で
全然疲れてないけどねー」と、
わたしの肩を抱く璃子は、
どこか嬉しそうで…
わたしも自然と笑顔になる。
「そんなことないよ!
部員の人達にも、璃子にも
沢山手伝ってもらっちゃったし…
ついていくのが、やっとだった」
つい溢れた愚痴に、
桐生くんは、はっきりとした声で
「そんな事ねーよ、
久し振りにしては、よく
気がついてた。
頭では忘れてても、身体が
覚えてたんだろ」
と、頭をポンポンして
笑った。
ドキドキ鳴る心臓を
落ち着かせながら、
どうして、桐生くんに
触れられると、こんなに
ドキドキするのかを
考えていた。
特別な友達に、こんな
胸が痛くなるくらいに
ドキドキするものなのかな?
病室で見た、悲しそうな顔は
胸がギュッとなって
苦しかった。
でも、優しく笑う顔は
ドキドキして、落ち着かない。
この感情の名前を
わたしは知らない。
「じゃあ、璃子っちは
俺が送ってくから、
流羽ちゃんは、翼に送って
もらってねー」
そう言って、わたしと桐生くんを
残して、足早に去って行く2人。
声をかけることも出来ないまま
呆然と見送った。
「じゃあ、俺らも帰るか。
ホームまで送る」
「え!?そんな、いいよ!
家までの道は、分かるし
1人で大丈夫だから!」
歩き出している桐生くんの
腕を咄嗟に掴んで、
わたしは断った。
すると、振り返った桐生くんは
一瞬黙ってわたしを見つめ、
「駄目、送る」と、
わたしの言葉一蹴し、
歩き出した。
その後ろ姿を呆然と
見つめて固まった、わたしを
振り返り…
「何してんだ、行くぞ」と、
優しい眼差しで見つめてくる
桐生くんに、わたしはまた
ドキドキした。
桐生くんだけに反応する、
この感情に動揺しながら
わたしは、桐生くんを
追いかけた。
ホームまでの道を歩きながら、
そっと桐生くんを見つめる。
その時、桐生くんの右手の
薬指に光る、シンプルな
シルバーリングが目に入った。
それを目にした瞬間、
胸がチクっと痛んだ。
彼女いるんだ…
そりゃそうだよね。
こんなにカッコいいんだもん、
居て当たり前だ。
なんで、わたし
落ち込んでるんだろう…
「どうかしたか」
不意に声を掛けられて、
ビクッとした。
咄嗟に、思った事を
そのまま伝えた。
「桐生くん、彼女いるんだね」
わたしは、薬指の指輪を指して
言葉を続けた。
「彼女さんに悪いから、
ここまででいいよ!
ホームもすぐそこだし!」
わたしが笑顔で、そう言うと
桐生くん、少し切なそうに
笑った。
「いるけど、相手は
そう思ってない」
「え…?喧嘩でも、してるの?」
そんな切なそうな顔になるほど、
その人の事が好きなんだ…
どんな人なんだろうと
すごく気になった。
「どんな人なの?彼女さん」
わたしの質問に、桐生くんは
空を仰いで…
「どんなことにも一生懸命で、
自分の事より、周りの人間に
優しい…
弱そうに見えて、実は強い
だからこそ守ってやりたい」
そう言って、優しい顔をする
桐生くん。
本当に、その人のことが
好きなんだって、伝わってくる。
「素敵な彼女さんだね…
きっと、桐生くんの気持ち
伝わってるよ…
大丈夫だと思うよ?」
そんな事を言いながら、
わたしの胸は、キリキリと
痛んだ。
わたしとは、正反対な人。
会ったことはないけれど、
本当に羨ましい…
こんなに想われてて。
わたしも、こんな風に
誰かに想われてみたいな。
それが、桐生くんみたいな
優しい人ならいいのに…
!!!!
なに、考えてるの!わたし…
これじゃあ、まるで
桐生くんが、好きみたいじゃない!
違う!違う!
好きなんかじゃ…
……好き
そっと、桐生くんを
見上げて、夕闇に包まれた
その横顔に、胸がギュッと
掴まれる。
ああ…
そうか…
桐生くんにだけ、ドキドキするのも
目が合っただけで、身体が
熱くなるのも…
桐生くんを好きだからなんだ。
分かった瞬間に、失恋って…
でも、人に対して…
特に、男の子に対して
こういう気持ちになれたのは、
生まれて初めてだから、
想いが届くことはなくても、
届けられなくても…
好きにならなければ良かったなんて
思うことは、きっとない。
大切な人には、幸せでいて欲しい。
いつも笑っていて欲しい。
その瞬間を、一緒に過ごす事が
出来なくても…
「大丈夫…
きっと、彼女さんに
伝わってると思うよ…」
こんなに想って貰えてるんだもん。
きっと、桐生くんの気持ちは
届いているよ…
無意識に、自分に、はめられた
指輪を包み込んで、俯いた。
その瞬間、ポタポタと溢れる
涙に気づいた、わたしは
俯いたまま、声を掛けた。
「もう、ここでいいよ。
送ってくれて、ありがとう」
桐生くんに、目を合わせないまま
足早に去ろうとした、わたし…
グイッ…
「え…?」
強い力に、引き寄せられて
そのままの勢いで、
桐生くんの胸に、
倒れこんだ、わたしは
軽くパニック状態で…
わたしを包み込むように、
回された温かい腕に、
鼓動はどんどん高まって、
身じろぎをしたけど、
それが、解かれることはなくて
更に、鼓動は加速していく。
彼女さんがいるのに、
どうして、こんな事するの?
ドキドキが嫌な音を立てて、
胸をきしませる。
「桐生くん…離して」
力を込めて、もがきながら
必死に言葉を紡いだ。
頭上から、聞こえた声は
低くて、どこか切なげだった。
「春瀬、少しだけ
こうさせてくれ…頼む」
その声に、腕の中から
見上げると…
その瞳は、切なく揺れていて
桐生くんらしくない、
どこか頼りない…
今にも消えてしまいそうなほど
儚く見えた。
だから、わたしは
キリキリと痛む、気持ちを
頭から切り離して、
腕が解かれるまでの間、
温かな腕の中で、
桐生くんの温もりを
感じ続けた。


