先生から言われた言葉が、

頭の中で、ぐるぐると回り

なにがなんだか、

分からない…

みんなが帰ったあとの

病室に1人になった、わたしは

どうしてか、あの男の子の

泣きそうな顔が、

思い出されて、胸がギュッと

苦しくなった。

『あなたは、誰?』と、

尋ねてしまったことが、

きっと、あの人…

桐生?くんを傷付けた気がした。

カーテンの隙間から見える

まん丸の月を眺めながら、

桐生くんの顔を思い出して

溜め息が漏れた…

あまり眠れないまま、

朝を迎えたわたしは、その日、

璃子が来るまでの間、

ずっと、モヤモヤしていた。

夕方の面会時間ぎりぎりに

友達だという、女の子と男の子が

お見舞いに来てくれた。

仁木聖奈ちゃんと日向大輝くん…

璃子が、連れてきて

くれたんだけど、

わたしはまだ、何も

思い出せていない。

申し訳ない気持ちで、胸が

苦しくなる。

起こされたベットの上から

3人のやり取りを

ジッと見つめていると

どこか懐かしい気がするけど、

なにか足りない気がしてしまう。

なぜ、そう思うのかも

分からないけど、

なんとなく、そう感じた。

そういえば、桐生くんの姿が

見えなくて、何の気なしに

璃子に尋ねた。

「璃子、昨日の…

桐生くん?

今日はいないんだね。

あの人も、わたしの友達?」

3人の表情が、少しだけ陰った。

やはり、昨日の桐生くん同様に

悲しそうな顔をしていて…

顔を見合わせた3人は、

わたしのベットの傍らに座り、

「俺とは幼馴染で、流羽ちゃんも

含めた5人で、一緒に過ごすことが

多くて…

俺たちにとっても、流羽ちゃんに

とっても…すごく特別な奴かな」

泣き笑いの表情で話してくれたのは

日向くん。

その言葉に、璃子も聖奈ちゃんも

静かに頷いた。

特別な人…

そう、頭の中で呟いたとき、

右手の薬指にアザが見えて、

心臓がドクドクと早鐘を打つ。

わたしは、ベットの中から

サイドテーブルの引き出し、

ベットの下や愛子さんが

持って来てくれた着替えの

鞄の中まで…

思いつく全ての所を

ひっくり返して、

この指にはまっていたであろう

指輪を、必死に探した。

突然のわたしの行動は

驚かせるには十分で…

「流羽、いきなりどうしたの?

何を探してるの?」

璃子の言葉に、わたしは

動揺を隠さないままに、

訴えた。

「璃子、ないの!

ここにあったはずなのに…

無くしちゃいけない

宝物だったのに!」

右手の薬指を左手でくるんだ。

どうしてかなんて、聞かれても

分からない…

けど、絶対に無くしちゃいけない

大切なものだってことは

分かる。

「どうしよう…

璃子、どうしよう…」

わたしは、璃子に泣いて縋った。

子供のように、わんわん泣いて

流れる涙を拭いもせずに

わたしは、泣き続けた。

璃子に背中をポンポンされて

落ち着きを取り戻したとき、

璃子が他の2人を残して、

病室を出て行った。

その間、聖奈ちゃんと日向くんが

寄り添うように、

傍にいてくれた。

2人のことを覚えていない

はずなのに、何故か

気持ちが落ち着くのが

分かる。

2人の記憶がなくても

心が覚えている…

そんな気がした。

「思い出せなくて、

ごめんね?

でも、2人が居てくれるだけで

すごく安心するの。

ありがとう…」

わたしの言葉に、顔を

見合わせた2人は、優しく

微笑んだ。

「例え、流羽が忘れてしまって

いても、わたし達が覚えてる。

それに、流羽はみんなにとって

大切な友達だからね!」

「そうそう!

思い出せないことを

申し訳なく思う必要はないよ!

焦る必要はないから。

そんなことで、俺達は

離れたりしないよ!」

「うん…ありがとう」

わたしに、こんな素敵な

友達が出来たんだって思うと

すごく誇らしくて

嬉しかった。

「友達ってことは、

わたしの足の事も…?」

2人は、同時に頷いた。

「仲良くなって、すぐの頃

ちょっと色々あって、

流羽が全部話してくれたの」

「そうなんだね…

驚いたでしょ?」

2人は優しい眼差しで

わたしを見つめ、首を振って

「驚きよりも、自分の

全部を包み隠さずに

話してくれた流羽を

強いって尊敬した」

そう言って、

聖奈ちゃんは、笑った。

「誰にでも話したくない事、

あるはずなのに、

それを話してくれた事は

友達として嬉しかったよ!」

ニコニコ笑って話す、日向くん。

そこに、嘘はないと分かった。

今までのわたしは、

知られたら最後…

奇異なものでもみるような視線、

心無い言葉を浴びせられるのが、

当たり前だった。

だから、知られる事を恐れて

いつもビクビクしてた。

でも、恐れていたことを

自分から、話せるように

なったんだ…

ちょっとしたことがあったと

2人は言ったけど、

だからといって、自分の過去を

自分の意志で伝えたのは、

驚き以外のなにものでもない。

でも、今、目の前にいる

2人や璃子、そして

桐生くんという友達が

信用出来ると、知って欲しいと

思ったからだろうな、きっと…

改めて、2人を見つめて

「わたしと友達になってくれて

本当にありがとう」

心からの笑顔で、

2人を見つめた。