去っていく箕輪くんの背中に

わたしは、心の中で呟いた。

好きになってくれて、

ありがとう…

わたしの視線を、大きな手が

遮った。

「俺以外の奴、見るの禁止」

わたしの目元を覆う、大きな手を

ギュッと握った。

「わたしが好きなのは、

今もこれからも、桐生くんだけだよ?

それに…桐生くんこそ、わたし以外

見ないでね?」

大きな手を握りながら、

見上げると…

「春瀬しか見えてねぇよ。

今もこれからもな」

「でも、桐生くんモテるからなぁ…」

ボソボソと聞こえないように、

呟いた、わたしの言葉に、

桐生くんは…

「どんな奴からの告白も、

意味ねぇよ。

俺には春瀬だけが特別だからな」

そう言って、笑みを浮かべる。

「…うぅ…」

身体中の熱が上がった。

桐生くんの言葉ひとつで、

わたしが、どれだけドキドキするか

分かってるのかな?

桐生くんのくれる言葉も、

優しく見つめる瞳も、温かい手も、

わたしにだけ向けられる笑顔も…

全部がわたしを捕らえて

離さないってこと。

わたしにとって、そうであるように

桐生くんにとっても、

そうあって欲しい…

その想いを込めて、桐生くんを

見上げて笑った。

友達として、傍で見ているだけで

想っているだけで、良かったのに…

溢れる想いは、止められなくて、

苦しくて、精一杯だった。

わたしの気持ちが、存在が、

重荷になる怖さも全部…

受けとめて、一緒にいることを

望んでくれた、桐生くんは、

わたしに、一歩前に歩く勇気を

くれたの。

ありのままの自分を、受けとめる

覚悟も。

全部、桐生くんがくれたの。

だから…

誰よりもなによりも…

大切で特別な存在なんだよ。

自分の気持ちと、相手の気持ちが

交わる日が来るなんて、

思いもしなかった。

偶然のような出会いが

積み重なった、奇跡。

それを、わたしは大切にしなきゃって

思う。

偶然の出会いも、今こうして

生きていることも…

当たり前ではなくて、

特別なことなんだって思うの。

だからね…

「わたしも、桐生くんだけが

特別だよ…ずっと」

握られた手を、キュッと

握り返して、好きだと言ってくれた

笑顔で、見つめた。