どうしてこんなに

桐生くんの全ては

温かくて優しいんだろう…

何度も降ってくる、その熱を

わたしは受けとめていた。

頭がポーっとしてきた…

「春瀬は好きでもない奴と

こういうこと、するのか?」

えっ…?

桐生くんがわたしを見下ろしながら

問いかけてきた言葉に、

わたしは、首を振った。

違う…

こんなこと…

好きな人にしか、したくない!

「じゃあ…俺のこと

好きなんだな?」

「そんなの当たり…ま、え」

思わず勢いで言ってしまった。

その聞き方も、キスも…

桐生くんズルいよ!

わたしの逃げ道ふさいで、

誘導尋問みたいな…

「俺も春瀬にしかしない。

俺にとって特別なのは、今も…

これからも変わらない。

ずっと春瀬だけだ。

どんな過去があったとしても

春瀬が春瀬である限り、ずっと」

恥ずかしくて見てられない!

わたしが目を逸らして

下を向くと…

また、桐生くんに顎を掴まれて

「っん!」

包まれるような優しいキス…

ふっと離れる気配を感じて

目を開けると、桐生くんは

優しい眼差しで

わたしを見つめて、

「春瀬が好きだ」

そう言って笑った…

どうやったって、

桐生くんには全部お見通しで、

嘘も誤魔化しも通用しない。

この瞳からは逃げられないんだ…

わたしは、もう…

目を逸らさないよ。

だから…

桐生くんもわたしから

目を逸らさないでね?

「わたしも…好き、だよ。

桐生くんが…」

「とっくに知ってる」

そう言った桐生くんの笑顔は

今まで見た中でも1番の

優しい笑顔だった。

昼休みだったこともあって

一緒に過ごすことになったんだけど…

なぜこんなことに…?

わたしを膝の上に座らせて

腰を抱く桐生くんに

わたしの心拍数は上がる一方で…

「あ、あの、桐生くん…

すごく恥ずかしいから

隣に座るんじゃダメ?」

「駄目」

えぇ!?

だって…ここ、中庭だよ!

すごく見られてる!

ありとあらゆる所から。

そして、目の前の3人から。

『春瀬は俺だけのもの』

そう言って、中庭に半ば強制的に

連れて来られて…

そして、中庭で過ごす

璃子と聖奈ちゃん、日向くんに

報告してから、ずっとこのままの

状態が続いています。

3人のニヤニヤ顔が

わたしと桐生くんに向けられていて

今すぐ、穴があったら入りたい気分…

「あの、みんなには報告したし…

本当にそろそろ限界だよ」

3人からの視線もさることながら、

あちこちからの視線も

すごく恥ずかしいよー!

「無理」

桐生くんって、こんな人だっけ?

身体も大きくて、

いつも冷静な顔してるのに…

そんな、駄々っ子みたいなこと

言われたら…

真っ赤になっているだろう顔を

覆って、視界を遮るしか。

「翼ー!そんなわがままばっか

言ってっと、嫌われんぞー」

呆れた声で、助け船を出してくれる

日向くん。

「…………」

えっ!?無視!?

日向くんを見ると、両手を上げて

お手上げだと言わんばかりに

首を振った。

いや!諦めないでー!

璃子に至っては、ずっと

ニヤニヤしてるだけで…

なら…

聖奈ちゃんっ!!

なぜか携帯をこちらに向けて

唸ってる…

パシャパシャッ!!

「せ、聖奈ちゃん!?

な、な、なにしてるの?」

「えー?なにって…

そりゃ、両思い記念の写真をね!」

なにもこんな抱き抱えられたところ

撮らなくても!

頭をぶんぶん振って拒否する。

「仁木、それ俺に送ってくれ」

へっ!?

いやいや!!

恥ずかしいから、やめて!

「了解ー!」

ニコっと笑う聖奈ちゃん。

ダメだ…

誰も助けてくれる気配がない。

諦めよう…

そして、昼休み中

わたしはずっと桐生くんの

膝の上で過ごした。

中庭での光景を見た、

知らない人達から向けられる

たくさんの視線を一気に浴びて

わたしは慣れない状況に戸惑いを

覚える。

しかも、そのどれもが女の子。

学年で1番モテる男の子…

桐生くんの傍に、わたしみたいなのが

いるんだもんね…

信じられないって顔してる人ばかり。

わたしだって、こうなることは

予測不可能だったわけで…

どうしたらいいのか

分からないよ…

放課後、体育館に向かって

璃子と歩くわたしを指差して

「あんな子が桐生くんの彼女?

あり得なくない?」

「あの子、足ないんでしょ?

同情で付き合ってるんじゃん?」

…とか、色々聞こえてくる。

そう言われることは、

こうなる前から分かってた。

だって実際、足半分ないしね。

でも…

分かってても、こういう言葉は

正直傷付くよ。

「お前ら、勝手なこと言ってんなよ。

そんな汚ねー言葉を

こいつに聞かせんじゃねーよ」

すごく低くて、地を這うような声…

顔を上げると、わたしの手を取り

女の子達から見えないように

隠される。

桐生くん…

こんなに怒りを露わにするところ

見たことないし、聞いたこともない。

「お前らみたいな、外面だけ見て

中身を見ない奴…

俺の1番嫌いなタイプ」

そのとき、後ろから

クスクス笑う声がして

振り返ると…それは日向くん。

「そうそうっ!

それに、翼怒らせると怖いよー?

これに懲りたら、そういうこと言うの

やめた方がいいよー」

桐生くんの隣に立った日向くんは

背中でピースサインをしていた。

学年で1番、2番と言われる

男の子達に助けられるわたしって…

嬉しいやら、恥ずかしいやら。

なんとも贅沢な…

さっきまでの沈んだ気持ちが

ぐんぐんと上がるのが分かる。

「はいはいっ!

もう、部活の時間だから

あんた達行くよー!」

璃子の一声で、

桐生くんと日向くんは

「よし、行くか」

「ラジャー!!」

わたしを間に挟んだまま

歩き出した。

「みんな、ありがとう」

わたしは精一杯の笑顔で

お礼を言った。