私の大荒れな気持ちが乗り移ったのか、天気は大荒れに..

ってか、傘持ってきてないや。

もう!あいつといるとろくなことない!

ちょうどそこを柚姫が通りかかった。

「あ、柚姫!傘...」

「ごめーん!私の友達も忘れてきちゃって!ほんとにごめんね!奏ちゃん!!」

柚姫は申し訳なさそうに頭を下げている。

「あ、いいのいいの!こちらこそごめんね、ありがと!」

私は努めて明るく言う。
でも心の中では、あいつのせいだ!という怒りがどんどんふくらんでいた。

しかし傘がないことに変わりはない。

私はせめてもと髪を一つにくくる。

「走るか・・・」

だれにともなくつぶやき、雨の中にとびこんでいった。

幸い、私は体力には自信がある。

・・・とわいえ、さすがにこの冷えた体で家までの1キロほどの道のりを走り続けるのは不可能で、
シャッターのしまった八百屋の屋根の下で雨宿りをした。

立ち止まっていると、びしょびしょに濡れた制服に冷たい風が吹き込んで、より一層体が冷えてしまった気がする。

あまりの寒さに身震いしていると。

「天使?」

げ!今一番会いたくなかったコイツに会ってしまうとは。

「お前傘は?」

「・・・忘れた」
どうせ笑うんでしょう?

「あのなーだからって...!」

「いいの!私はこれで!ほっといて!」
馬鹿にするんでしょう?

「はあ..ほっとけるかよこんな無茶してるバカ。こんなに顔色悪いしふるえてんのに」

「馬鹿!?ふるえてない!無茶してない!」

すると。

瀬賀の手が伸びてきて、

身動きできなくなる。

その手は私の頬を包み込むように優しく触れた。

「じゃあこれは何?つめたいんだけど」

な、なな、

びっくりしすぎて私は完全にフリーズしてしまう。

「だからさ、ちゃんとだめなときはだめっていわないと」

肩の上にふわりと暖かいものがかけられる。

それは瀬賀のブレザーで、瀬賀はワイシャツ一枚という薄着になってしまっていた。

「ちょっと....!」
こんなことして瀬賀は得しないのに。むしろ損しちゃうのに。

「あとこれ」

瀬賀は私に自分の持っていた傘を握らせた。

なんなんだコイツは...!意味が分かんない。
二重人格なのか!?

「・・・なんで....瀬賀君は何で、私なんかに優しくするの?私は醜いんだよ?それを知ったのになんで!」

「はあ...お前やっぱり馬鹿だな。なーんもわかってないし、私なんかとか言うな。あとめんどくさいから瀬賀でいい。」

「じゃあ瀬賀...なんで?」

私は地面の水たまりを見つめた。
次々と降ってくる雨粒たちが、私も私もと集まってくる。

「天使」

「ん」
私は地面を見つめたまま返事をした。

「天使!」
さっきより大きな声で名前が呼ばれ、それと同時に顔をあげさせられた。

「へっ....?」

「天使は、自分が思ってるよりずっといい人間だから自信もて」

瀬賀のまっすぐな瞳ががっちりと私の心をつかんで、離してくれない。

「なに..それ...答えになってないよ....」
体中寒くて震えていたはずなのに。心だけがぽかぽかとあったかい。

「じゃ、」
瀬賀はまた雨の中に飛び込もうとしている。

あー行ってしまう。言わなきゃ、言わなきゃ。

私は思い切り手を握りしめた。

「瀬賀!!!」

私が呼ぶと彼は少し驚いたように振り返って。

「ありがとう!」

「おうっ!」

そっけない返事とは裏腹に、優しい笑顔を見せてくれた。