教室に入ると。

なんと瀬賀は寝ていた。

起こして話しかけようかとも思ったが、あまりにすやすやと気持ちよさそうなので、起こすのも気が引けてやめた。

私は近くの席に座って、ターゲットが起きるのを待つことにした。

そうしていると、自然に視線が瀬賀の端正な顔立ちにひきつけられてしまう。

「きれい.....」

おもわずもれたつぶやき。

その瞬間、涼しげな瞳がぱちりとあいた。

あわあわとしている私を一瞥し、思いがけないことに瀬賀は笑った。

とけてしまいそうなほど、柔らかい笑顔だった。

「おはよう、天使。今、俺のことみてただろ」

「え....」

「だって寝てないし。あと俺の事きれいって言った。」

うそ!ばれてたの!?

動揺する気持ちをなんとか押し込めて、あくまでも冷静に、でも少しひかえめを思わせる口調で私は言う。

「ごめんなさい..ただちょっと瀬賀くんとなかよくなりたいなーなんて、思ったり、して」

この控えめなしゃべり方は、しゃべるのが苦手なのに頑張ってしゃべってくれているのかな、という錯覚を引き起こす。

ここまでくれば、8割方攻略完了...

「うーんむりかな」

「えっ!!」

思ってたのと真逆の答えが返ってきたため、私は思わず大声をあげてしまった。

瀬賀はからかうように笑みを含んでいる。

「天使の事、教えてくれないなら、俺だって教える気ないよ」

やばい。完全に見透かされてる。

いつのまにか瀬賀はいつものポーカーフェイスにもどっていた。

「な、なに言ってんの?!」

「だっていつも誰かにずかずかプライバシーに踏み込む質問ばっかするくせに、自分のことを一切話さないだろ?」

「そ、それは、なかよくなりたいからっ....!」

「そんなうわべだけの友達に仲良くとか言ってんのか。きいてあきれた。」

瀬賀がふわぁとあくびをしてそっぽを向く。

「私は!瀬賀君にきいてあきれたって言われる筋合いはない!!私の事、何も知らないくせに!」

思わずとびでてしまった大きな声。

自分で驚いてしまい、とまどっていると。

「っ!」

突然瀬賀に手首をつかまれた。

振りほどこうとするけど力が強くて振りほどけない。

「じゃあ教えてもらおうかなこれから、天使の事。」

な、なに言ってんのコイツ。

私は必死に手を振りほどいた。

教室にはぞろぞろとほかの生徒が入ってくるところだったので、私は小さくため息をつき、自分の席に着いた。といっても、となりだけど。

さっきつかまれた手首にはまだ感触が残っている。

手大きかったなあ...って!!何考えてるんだ私は!!!

私はフルフルと首を振り、いらない考えを取り払った。