「さあ、準備して」
僕の部屋。下のリビングから、母さんが呼んでいる。僕は小学三年だ。結構、お調子者だったりする。
急に話が変わるけど、僕はもうすぐ引っ越す。僕は行きたくなかった。もちろん、そんなのは通じないけれど。中途半端なこの時期に。今は、春休みの前一か月前だった。何でこの時期に。
僕はドアを開けて下に向かって叫んだ。
「うん…分かったよ、母さん」
僕は、準備をしに下へ行こうと思い、ドアノブに手をかけた。すると、
『プルルルっ』
下で電話がなる音がした。誰だろう、と思った。そして、母さんが電話に出たのだろう。電話の音が消えて、母さんのよそ行き用の声がする。
「もしもし?…あら、結萌ちゃん?…え?海に御用で…。そうですか、代わりますね」
階段を降りていると、そう聞こえた。電話はユメからだったのか。
結萌というのは、幼馴染だ。それも、一歳位からの付き合いだ。僕はユメと呼んでいる。
なんの用だろう。僕は考えながら、トントンと階段を降りる。そして、リビングのドアを開ける。
母さんがこっちを見て、
「結萌ちゃん」
と言って僕に電話を渡してきた。
僕はそれを受け取って、耳にあてる。
「もしもし?ユメ?」
電話のむこうのユメに話しかける。
『あっ、カイ??お母さんと話すの久しぶりだから緊張したよ』
僕はユメからは、カイと呼ばれている。
電話のむこうからは、ユメの声がする。
僕は、普段はすぐに電話に出たり、メールを返信したりするタイプだから、母さんと話すのが久しぶりだったのだろう。
「あっ、そうなの。てか、ユメ…今日は朝日ちゃんと遊ぶんじゃなかったの?」
なぜ知っているのか、自分でも不思議だ。けど、今日は水曜日。ユメは同じクラスなので、関わりも多い。だから、ユメが今日、遊ぶことを知っていたのだ。…多分。
『えっ、なんで知ってるの。あー、盗み聞きしたな!変態~』
とユメは言って、クスクス笑っている様だった。僕は疑いを晴らそうと、
「いや、朝日ちゃんが、今日はユメと遊ぶって言ってたから…」
と言った。また、これも事実だった
『えっ、あさみんが?ごめん、カイ…』
と次は電話のむこうから弱々しい声がする。ユメはとても感情がわかりやすい。
しかも、今ので分かったことがある。ユメは朝日ちゃんの事をあさみんと呼んでいると言うことだ。別にどうでもいいけど。
「いーよ、別に。で、何の用?」
と、僕はわざと素っ気なくかえした。本当は、全然良くない。下手すれば、明日から変態扱いされる所だったんだから。
『あっ、そーだそーだ。クラスで、終業式の日の放課後に、鬼ごっこしよーってなってて。カイ、もちろん参加だよね?』
終業式の日?僕は、終業式の日の放課後、帰ってすぐに引っ越すのだ。実は、誰にも言ってなかった。
「うーん。どうだろう。考えとくよ」
僕は答えた。本当は絶対参加できない。でも、まだ引っ越す事は認めたくなかった。
電話ごしにだが、ユメは凄く驚いている気がするのは気のせいだろうか。
『ええっ!カイなら、絶対参加!って言うと思ってたのに…』
と、予想通りの反応をした。やっぱり、気のせいじゃなかったようだ。
「じゃあ、ちょっと用があるから、またね」
と言って、僕は電話を切ろうとした。ユメも
『あ、うん。また学校でね』
と言ったから、電話を切った。
母さんは、僕に
「言わなくて、よかったの?」
と聞いてきた。引っ越しの事だろう。僕は
「いい。まだ」
と言って、使わないものなどをダンボールに詰め始めた。