目を開けると、私は真っ白な世界に沈んでいた。

 慌てて起き上がろうとしたが、いやに体が重い。なかなか力の籠らない手を上げて天に向かって腕を伸ばすと、何かが指先に触れてすぐにとけた。


 それは、雪だった。切れ目のない真っ白な空から、幾千万の雪の欠片が私に向かって降り注いでいる。
 
 早く起き上がらなければ、いずれ私は雪の中に埋(うず)もれてしまうだろう。不安に駆られもう一度起き上がろうと試みたが、私はふと動きを止めた。


 ――それも、いいかもしれない。


 全て忘れて、雪にとける。その考えは、瞬時に私を魅了した。あっさりと誘惑に負け、再び目を閉じる。


『……夏希さん』

 薄れていく意識の中、何かが私を呼び止めた。

『やっと……見つけた』

 切なげな声に胸が軋む。


 その声の正体を確かめたいのに、辺りを舞う雪が邪魔をして顔を見ることも叶わない。

 差し出された手に手を伸ばす。


 あと少し。もう少しであなたに届くのに。

 一瞬、差し込む光が二人を遮ったかと思うと、真っ白だった世界は全て闇に落ちた。