「え。なに? 話しがあるのって、矢田じゃねぇの?」
少し掠れた声は、この年の男子にしては少し高めだった。
でもきっと彼の声は、広いグラウンドではよく通るにちがいない。
「用があんのはコイツ。越智の顔がわかんねぇっつーから、連れてきた」
「ごめんね、練習前に! すぐ終わるから、ちょっとだけ時間くれる?」
「いいけど……なんだ、この状況?」
困惑気味に眉を寄せる越智くんに、申し訳ない気持ちになってくる。
そうだよね、そうなるよね。
いきなりグラウンドで剣道着姿のふたりに呼び止められて、しかも女の方は初対面だしね。
「いやぁ……ほんとごめん。あたし2組の小島っていうんだけどね」
「知ってる。剣道小町だろ」
「……うん? 剣道こまち?」
剣道はわかるけど、こまちって何?
小野小町なら知ってるけど、それとは別?
そしてそれはもしかして、あたしのあだ名みたいなものなんだろうか。


