「あ? なんか言ったか?」
「べっつにー。こんなこと、もうこれっきりにするからいいの!」
少し甘い香りのするラブレターが折れないように、でも落とさないようしっかり持って、足をはやめる。
ノロノロしてたら、部活が始まってしまう。間に合わなかったらそれはつまり、遅刻だ。
優ちゃんは普段とっても優しいけど、遅刻や無断欠席にはものすごく厳しい。
そういう時は菩薩から、一気に般若みたいな顔になるんだから。鬼主将、なんて呼ばれることもあるくらい恐い。
「あー……チラホラ集まってるね」
たどり着いたグラウンドには、色々な練習着を着た生徒がいた。
サッカー部に野球部、陸上部にチア部もいる。
土の茶色、人工芝の緑。そしてその上に広がる空は水色。
こんな色に溢れた贅沢な場所で、風に吹かれて練習が出来るって羨ましいなと思った。
剣道部はいつもだいたい、閉ざされた剣道場の中だから。
まああの板張りの空間もあたしは好きなんだけど。
「どう? この中に越智くんはいる?」
横に立った深月に聞けば、じっとグラウンドの見渡したあと「いねぇな」と首を振る。


