「だったら加奈子がやってあげればいいのに」
「あたしじゃ意味ないじゃん」
「そんなの知らないよ~。あんたが大好きな山岡先輩だって言ってたんだから。こういうのは自分で渡すもんだって……」
「もういいよ」
言い合いに発展しかけたあたしたちの間に、千世の声が割って入った。
諦めの響きをたっぷり含んだ、静かな声だった。思わずギクリとしてしまったくらいの。
「もういい。ごめん、歩。嫌なこと頼んで」
「え。いや、その」
「忘れて。じゃあね」
手紙を引っ込めて、千世が去ろうとする。
そんなあからさまに「ショック受けてます」って顔されたら、あたしが悪い奴みたいじゃん。悪いことしたみたいに感じちゃうじゃん。
加奈子がバシリとあたしの肩を叩いて睨んでくる。
憧れの山岡先輩に手紙渡してあげたのに。恩を仇で返すって、こういうことか。
本当は嫌だけど、心底嫌だけど……。迷った末に、結局千世を引き留めていた。


