「……実は、誰にも言ってない秘密がある」
「ひ、ひみつ……?」
「中学の時、ダチの応援で行った剣道の大会で、ある選手の試合に釘付けになった」
それは知ってる。というか部員の間でも、先生方の間でも、よく知られてる話だ。
矢田深月が白木優一郎の試合に魅了されて剣道をはじめ、高校にまで追いかけてきた熱狂的なファンだってことは。
「そいつは細身で小柄なのに、全然弱そうに見えなくて、むしろ誰より自由にのびのびやっている姿が、めちゃくちゃ大きく見えた」
「……え?」
細身で小柄って、誰のこと?
優ちゃんが中学生の頃、たしかにいまよりは細身だったけど、中学の男子の中では平均以上の体格だったはず。
じゃあ、誰? 深月が言っているのは一体……。
「剣道について全然無知だったし、その選手が強いか弱いかなんてさっぱりわからなかった。でも……ひとつだけ、はっきりと感じたのは、そいつが誰よりも楽しそうだってことだ」
諦めたような、覚悟を決めたような顔で、それでもなぜか渋々といった風に、深月があたしを指さす。
「それが、お前だ」


