むしろインターハイ出場を口実にしようとしていたのかもしれない。


優ちゃんの為に、優ちゃんに伝える為に、あたしは今日だけは、絶対に勝ちたかったんだ。

でもそれは、叶わなかった。


もう、優ちゃんに会いに行けなくなった。かける言葉をつかみ損ねてしまった。

いまのあたしに、優ちゃんに言えることは何も、何ひとつない。



見上げた病院は白く、冷たく、静かな箱だった。優ちゃんを押し込める箱。

こんなところに閉じ込められて、自由を奪われて、どれだけ心細い思いをしてるだろう。


あたしが優ちゃんを笑わせてあげたかった。

今日はきっと、優ちゃんの笑顔が見れると思ってた。そう信じてがんばってきた。



しばらく雨に打たれながら立ち尽くしていたけれど。

タクシーが玄関前に滑り込んできたのをきっかけに、病院に背を向ける。


ふと横に向けた視線の先。

小さな花壇に紫陽花が咲いていることに気付いた。


ひっそりと咲く紫陽花を、淡く滲ませながら降り続ける雨は、あの日のそれによく似ている。


雨は嫌いだ。

雨を嫌いな自分は、それ以上に嫌いだった。