開始線に戻り、剣先を交える。
互いに1本ずつ。
制限時間内にもう1本が出なかったら延長戦。
嫌な汗が背中に流れるのを感じた。集中を切らすなと、自分に言い聞かせる。
勝つ。それだけを考えろ。
『無心になれ』
優ちゃんの揺るがない大樹みたいな声が、耳の奥で再生される。
勝つ。勝つんだ。絶対に。
逃げるな。攻めて攻めて攻め続けろ。
行け、行け、行け……!
小手を警戒されているのを感じ、隙をつき担ぎ面を仕掛けようとした瞬間。
さっき決められた、あの鮮やかな逆胴が脳裏に閃いた。
剣が鈍る。相手がその機を逃すわけがない。
負けるもんか! 勝つんだ……!
それは本当に、一瞬の出来事だった。
ほぼ同時に打突音を上げ、交差し、すれ違う。
残心に気を配る余裕はなかった。
どっちだ。いまのはどっちだった……!?
振り返った視線の先、一斉に挙げられたのは……
目に痛いほどの、赤。


