とった。先に1本。
白い対戦相手からはじめて取った1本に、胸が震える。
けれどその1本を取ったせいで集中が途切れたのか、あの相手がよく見えるスロー現象は消えてしまった。
油断しちゃいけない。まだ1本。試合時間は残り半分。
気を抜けば一瞬で取られる。それを肌で感じていた。
相手の面の奥、こっちを見据えてくる瞳は恐ろしいほど静かで、あたしの喉が上下する。
のまれるものかと、睨み返した。こっちだって一歩も引く気はない。
勝つ。勝つ。勝つ。
勝つんだ。
相手に余裕を与えちゃいけない。1本とったからといって油断は禁物だ。
でも相手もあたしの気合に触発されたのか、1本先取されたことで気合を入れ直したのか、攻めが激しくなる。
間合いを詰められ、素早く打ち込まれるのを避け、間合いを取り直そうとしているうちにライン際まで追い込まれた。
そして踵をつけた瞬間「来る」と鋭敏になった神経が察知した。
それを防御しようとした所、鮮やかに逆胴を決められてしまった。
やられた。
いまのは見事な1本だった。
上げられた赤い旗もどこか誇らしげで、それがいやに目についた。


