静まり返った病室に、優ちゃんの荒い息だけが聴こえていた。
優ちゃんは疲れ切った様子でベッドに腰かけると、色素の薄い髪で顔を隠すようにうなだれた。
大切な幼なじみの何かが、擦り減っていっているように見えて、怖ろしくなる。
「……抗がん剤の、副作用だよ」
「え……?」
「発熱、食欲不振、吐き気、倦怠感。全部この薬のせいで起こってる」
まるでひとりごとのように呟いて、優ちゃんは点滴スタンドを軽くゆすった。
抗がん剤。名前だけは聞いたことがある。
毒みたいな色だと思ったら、本当に優ちゃんの身体を蝕んでいたのか。
「そ、そんなにひどいなら、一端止めたりできないの?」
「止めてどうするんだよ。白血病を治す為に打ってるんだ。これを止めたら、今度はがん細胞が俺の体を食い荒らすんだぞ」
「そんな……病気を治すための薬なのに、楽になるどころかつらくなるなんて」
「笑えるだろ? でもこれを俺はしばらく打ち続けなくちゃいけない。俺の血液の中のがん細胞が消えるまで」
「それが終わるのが、2ヶ月ってこと……?」
優ちゃんの肩が微かに揺れる。笑った……のかも、しれない。


