優ちゃんは低く、早口で言ってあたしを睨んだ。
その声にも視線にも、いつもの包み込むような優しさは欠片も内包されていない。
ただただ、苦しそうで。喋ることすら辛そうで。
病気が悪化したんじゃないかって、怖ろしくなった。
ふらりと優ちゃんが歩き出す。
ベッドに戻るんだとわかって、点滴を避けて支えようとしたけど、その肩に触れる前に思い切り手を払われた。
「俺のことはいいから帰れ!」
「ゆ、優ちゃん……? どうしたの? なんか変だよ。調子悪いんだよね? やっぱり看護師さんを呼んで……」
「余計なことはするな! 帰れ!」
声を絞り出すみたいにして叫ぶ優ちゃんを、呆然と見つめる。
この前病室で会った時と、様子がまるで違いすぎた。別人かと思うくらいに。
この10年、剣道をやってる時以外で優ちゃんに怒鳴られたことはない。
あたしがバカをやっても、いつも優ちゃんは名前の通り、優しく諭してくれた。
あたしの気持ちに寄り添って、感情に身を任せることなく、向き合ってくれていた。
だから、受け止めるのに時間がかかった。
あたしの知らない優ちゃんが、目の前にいることに。


