「こんな時まで主将らしくしないでよ~」
「大事なことだろ? 毎回試合前に緊張して、ろくに竹刀も持てなくなるくせに」
わざとらしく意地の悪いことを言って、優ちゃんがあたしの頭を撫でる。
繋がった点滴の、パックの中身がたぷたぷと揺れるのを、ハラハラしながら見つめた。
「大丈夫だよ……たぶん」
「俺の代わりに、矢田にいつものやってもらうといいよ」
「深月に~?」
いつものっていうのは、試合前に気合を入れる目的で、優ちゃんに背中を叩いてもらっている儀式みたいなもののことだ。
パンと勢いよく平手で叩かれると、震えが止まって、スッと目の前のことに意識を向けられるようになる。
ずっとずっと、優ちゃんにやってもらっていた。これからも、やってもらえると思ってた。
「どうせ俺が引退したあとは、矢田がやることになってただろ?」
「そう、かもしんないけど……」
「あいつなら、ちゃんと歩のことを理解して、力になってくれる。心配するな」
でも、あたしは優ちゃんがよかったんだよ。
いつもやってくれてたのに、あの手がないと思うと全然勝てる気がしない。


