君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている


うわ、あたしいま、嘘ついてる。不快感が胃の中からあっという間に全身へと広がっていった。

わかってる。こういうの向いてないって。不自然で下手くそだってこともわかってる。


なのにまた、嘘ついてる。自分勝手なひどい嘘。

自分がどんどん汚れていく気がして嫌になる。苦しくてたまらない。


それでもあたしは、この砂時計の中から出ることが出来なかった。



「まぁ……別にいいけど」


なくすなよ、とだけ言って深月は笑った。

その笑顔を向けられる価値は、自分にはないと思った。


深月がひとり、竹刀を構えて素振りを始めるのを、少し離れて黙って見つめる。


優ちゃんに憧れて剣道を始め、この高校まで追いかけてきた深月だけど、その剣が優ちゃんとかぶることは不思議となかった。

優ちゃんは泰然と構える、巨木のような、山のような、とにかく雄大な剣だ。時には相手が戦意喪失してしまうくらいの域にある。

深月の剣は芯の通った、まるでブレることのない強さを持っている。時に荒々しく、時に羽のように軽く、どこまでも自由だ。


そういう深月の剣が、あたしは好きだ。本人に伝えたことは一度もないし、この先も言うことはないだろうけど。


とても、好きだった。