呆然とする深月の前で、面を外す。
視界が広くなっても、世界は色褪せたままだった。
「そんなに、かかるのか」
「とりあえず、2ヶ月くらいだって」
「とりあえず……?」
「抗がん剤を何回かに分けて、打ち続けなきゃいけないんだって」
「抗がん剤……。血液の、がんなんだっけか」
がん。たった2文字なのに、こんなに人を恐怖に陥れる言葉が他にあるだろうか。
ものすごく重くて、苦しくて、暗い響きがある。がんのことだって全然詳しくないのに、その名前だけで恐ろしいことを連想してしまう。口にはとても出せないことを。
「大丈夫か、お前」
深月はふと、視線の揺らぎをぴたりと止めて、あたしを見た。真っ直ぐに。
いつもの深月だったことにほっとして、自然と笑顔を作ることができた。昨日から笑い方が、わからなくなっていたから。
「大丈夫じゃないのは優ちゃんだよ」
「でも、お前も病人みたいな顔してるぞ」
「へえ……。あたし、入院とかしたことない。病気どころか大きいケガもなかったし」
「俺も。インフルエンザすらかかったことねぇわ」
「それは健康すぎ。……優ちゃんだって、そうだったのに」


