いつも通りのことをしてるのに、いつも傍にある温もりがないだけで、こんなにも世界から色が失われるなんて。


知らなかった。あたしは自分が怖れていたのがどんなものなのか、全然わかっていなかった。

こんな形で知ることになるなんて、想像もしていなかった。



カラカラと、剣道場の入り口が開かれて、練習着姿の部員がひとり現れた。

背が高く、癖の強い長ったらしい前髪の男は、猫目で観察するようにあたしを見てくる。


「早いな。もう来てたのか」


あたしの前の白線に立つ。竹刀は持ったまま、構える様子はない。


「まだ主将の見舞い、行けないのか? 部員代表で1人とかでも難しいのか」


優ちゃんを尊敬し、慕ってやまない男は優ちゃんが倒れて4日、ずっとこの調子だ。

メッセージが既読にならないだの、一瞬でも様子を見に行くくらいいいんじゃないかだの、まるで恋人みたいに心配してソワソワしている。


別にバカにしてるわけじゃない。気持ちはわかる。あたしも昨日までは同じような状態だった。


「もう行けるよ、お見舞い」

「まじ?」

「っていうか昨日、行ってきた」


3日ぶりに、優ちゃんに会ってきた。