何であたし、逃げてるんだろう。別に普通にふたりに話しかければいいのに。何してんのって、聞けばいいのに。
それが出来ない理由なんて考えたくもない。
もう何も、考えたくない。
「おい、待て!」
行く当てもないのに早足で廊下を進んでいたあたしの腕を、つかみ止める手があった。
後ろに腕を引かれ、その勢いで振り返ったあたしの目に、怒ったような深月の顔が映る。
「どこ行くんだよ?」
「べ、つに……トイレだよ、トイレ」
「それならあっちのが近いだろ。なんでわざわざ遠い方に行くんだよ」
自分の背後を指して、深月があたしを怪しむようにジロジロ見てくる。
あんたこそ、何で追いかけてくるの。樹里とあんなに楽しそうに話してたのに。
「いいじゃん、どこのトイレ使おうとあたしの勝手でしょ。そういう気分だったの」
「……また主将と何かあったのか?」
「なんで……そう、思うの?」
「当たりか。そんなの、お前がそんなブサイクな顔をするのは主将絡みの時だって、決まってるからだろ」
それは決まってるのか、知らなかった。っていうかブサイクな顔ってどんな顔だ。相変わらず深月はあたしに遠慮なく失礼だ。
そんなの慣れっこだし、いまさら気にしない。深月の軽口でついた傷の痛みなんて、いまのあたしにはわからないだろう。
心も身体も、鈍くなっている気がするから。


