誰にも迷惑かけてないんだから、文句ないよね?
そう言われて、あたしは部屋を出ていくしかなかった。何かを言う権利はないと思った。
家族に嘘をついていることを、裏切りだと責めるには、あたしと智花の距離があり過ぎた。
それに智花は裏切ってなんかない。ちゃんと良い娘を、妹をやっている。
つかなくていい嘘をつかせているのは、こっちなんだ。
その事実は次々と暗く思い雲を生み、いまもあたしの心を埋め尽くしている。
少しでもその雲を払いたくて、早くも汗をかきはじめた缶を見つめた。さっきの先輩のはじける笑顔を思い出す。
キラキラしてた。嬉しいって全身で表現してた。見てるこっちも笑顔になるような喜びようだった。
「……はじめてお礼されちゃったな」
正直、嬉しかった。あたしのやってることは、そういうことなんだって。
幸せを運んで、人を笑顔にして、お礼を言われるような、誇らしいことなんだって。
でも……そう思うと同時に、よみがえるのはあの時の光景。隠した罪の大きさも浮き彫りになる。
いくらいま感謝されても、それは罪ほろぼしなんかにはならない。これはあたしの身勝手な自己満足でしかない。
そんなのわかってる。わかってるから、気持ちは晴れない。


