君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている


いつもなら、すぐに言い返して口論になるところだ。でも、言葉がつかえて出てこない。


なんか、変だ。息がうまく出来ない。吸うのも吐くのも、ひどく難しくて。

どうしちゃったんだろう、あたし。なんでこんなに、手が震えてるんだろう。深月の顔を見返すことができないんだろう。

どうして……



涙が、出そうになるんだろう。



もう少しで瞳の表面にたまった涙がこぼれそうになった時、前から舌打ちが聴こえて、深月が立ち上がった。


少し汗ばんだ大きな熱い手に、しっかりと右手をつかまれ、引き上げられる。


「帰るぞ」


いま来たばっかりのくせに、吐き捨てるように言って深月が玄関に向かいだす。あたしの手をつかんだまま。


深月の分の麦茶をコップに注いでいた優ちゃんが、目を丸くしてこっちを見ていた。


「矢田、どうした?」

「すんません。帰ります」


いつも優ちゃんに対して、過剰なまでに礼儀正しい深月とは思えない態度だった。

たいした説明もせず、玄関に並んだスニーカーの踵をつぶして慌ただしくドアを開く。あたしは引きずられるままサンダルを足にひっかけ、外に連れ出された。