君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている




3年生の教室の前。通りがかる先輩たちの視線を浴びながらも、あたしは目の前の人だけをじっと見つめた。


「5組の横井さや先輩から、お届けものです」


白い封筒に赤いマステがシール代わりに貼られている。

まったく面識のなかった人から手紙を託され、まったく面識のない人へとその手紙を渡しに行くこの行為にもすっかり慣れた。

頼んでくる人の心をしっかり聞いて、手紙と一緒に相手に渡す。

一時は覚悟も何もなく、ただやっつけ仕事のように雑にこなしたこともあったけど、いまは違う。

あたしなりに誠実に向き合ってるつもりだ。頼んでくる人、渡す相手、それから手紙に、そして自分の役割に。


慣れると余裕が生まれるもので、あたしはよく相手を観察するようになった。

特に手紙を宛先人に渡す時の、相手の表情を興味深く見つめる今日この頃。


いま目の前に立つ男の先輩は、手紙の差出人の名前を聞いてすぐ、目元を綻ばせた。

そのくせ口元はへの字にして、顔が緩むのを必死に隠そうとしている。そんなことをしても、喜びは全身から漏れ出ちゃってるから意味ないのになあと、こっそり思う。


相手が嬉しそうだと、最近あたしもちょっと嬉しい。