君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている


知らなかった。優ちゃんがそんな風に思ってたなんて。

そんな風に思われてたなんて、知らなかった。


どんどん強くなっていく優ちゃんとは対照的に、いつも入賞止まりでなかなか上に行けないあたしに、口にはしないけど呆れてるんだろうなと思ってたから。


「あとは歩が勝つって気持ちでいけば、大丈夫だ」

「それ前も言ってたけど、あたしだっていつも勝ちたいって気持ちで挑んでるんだよ?」

「うーん。お前は色々考えすぎなんだよ、きっと。無念無想を目指せって言ってるだろ?」

「でもさ、勝ちたいって考えてたら無念無想にならないんじゃないの?」


剣道場に飾られた、無念無想の書を見上げる。

つまり無心になれってことなんだけど、剣道を始めた頃から言われ続けていても、そんな境地に至ったためしはない。


「そうかな。勝つ。それだけを考えているのは、雑念に囚われていることにはならないだろ。相手は次どうでる、どう来る、なんて考えている方がきっと動きは鈍る。歩に何も考えるなって言っても難しいだろうから、絶対勝つとだけ考えておくくらいがちょうどいいと思わないか?」