君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている


必死な様子で辺りを見回してた優ちゃんは、物置の影にいたあたしを見つけると、一瞬泣きそうな顔をして、笑った。

宝石みたいな色素の薄い瞳が、心配したぞって言っていた。安心したとも、教えてくれた。


「歩」


いつも竹刀を握ってる大きな手が、労わるようにあたしの頭を撫でた。いつも通りの優しさで。


大丈夫だから、帰ろう。

そう言われ、あたしは迷ったけど差し出された手をとった。

優ちゃんが大丈夫って言うなら、きっと大丈夫なんだって思えたから。


中学の剣道部に入った優ちゃんは、週に1回しかここに来ないはずで、その日も来る予定じゃなかった。

あたしを探すために、それだけの為に、稽古中より汗だくになって駆けつけてくれた。


だから、大丈夫。生活がなにもかも変わってしまったとしても、優ちゃんはあたしの大好きな優ちゃんのままでいてくれるはずたから。

お母さんが変わってしまっても、優ちゃんがいれば、大丈夫。


涙の止まらないあたしの手を、優ちゃんはあの日ずっと、握っていてくれた。





「家出って、短絡的にもほどがあるだろ」