君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている


途中公園に寄ったり、あちこちフラフラしながら歩いて、薄暗くなり始める頃剣道場に戻ってきた。


行く場所なんてそこしかなかった。いま考えれば帰巣本能みたいなものだったのかもしれない。

あたしにとって、剣道場は自分の家よりも安心できる場所だったんだ。


道場には人がまだいたから、見つからないよう裏手に回って、物置の影に身をひそめた。

砂混じりの冷たい土の上。膝を抱えて震えていたのを覚えてる。

確かいまくらいの時期で、全然寒くもなかったのに。たぶん、怖かったんだ。

いまの生活が、何から何まですべて変わっちゃうんだと、それを想像してひとりで泣いた。


「懐かしいな……。親の再婚は、子どもの意志だけでどいにかなるもんじゃないからね。」

「子どもの意志も充分関係あるけどな。だから歩だって、あの時家出したんだろ?」

「優ちゃん、覚えてたんだ?」


すっかり夜になっても剣道場の裏に隠れていたあたしを迎えに来たのは、お母さんじゃなくて優ちゃんだった。

中学の制服を着て、息を切らして現れた大好きな幼なじみ。その白いシャツは汗で半分透けていた。