笑いながらそう嗜めてきた彼こそが、深月より上の100年にひとりの天才。
我らが剣道部部長であり、あたしの幼なじみでもある、3年白木優一郎。
剣道部のプリンスと女子生徒の間でこっそり呼ばれている、優ちゃんだ。
さっきの女子の声もたぶん、優ちゃんと遭遇して興奮したファンのものだろう。
「お疲れさまです、主将!」
深月が見事に90度に腰を折る。
綺麗な最敬礼に、あたしは隣で呆れた。
「うん。お疲れ、矢田。今日の稽古も気合入ってたな」
「っす。予選近いんで。それは主将もですよね。掛かり稽古の時、主将の元立ちやった人が、あまりの主将の気迫にちびりそうになったって言ってました」
「それは大げさだろ」
穏やかな笑顔の優ちゃんに、深月も嬉しそうに笑う。
ご主人様と大型犬みたい。
優ちゃんを前にする深月を見ると、いつも思う。
優ちゃんが好きで尊敬してて、絶対服従という感じがいかにも犬だ。黒くて大きくて、ご主人様以外には懐かない可愛くない犬。
ぶんぶん左右に振られる尻尾が見えるようだ。猫目のくせに。


