地稽古なのに、せっかく優ちゃんとやれる貴重な練習なのに、全然ダメだった。
まともな打ち合いにならなかったし、怒られるかと思ったけど、優ちゃんは励ますようにあたしの肩を叩いただけだった。
あとはいつも通り部員に声賭けをして、黙想の準備に入る。
その背中を見送りながら、面を外して長く息を吐き出した。やっとまともな酸素にありつけたような気になる。
「ばーか」
追い抜きざまあたしの頭を叩いていった深月。
あたしが本当は何に苛立ってるかなんて知るはずないのに、お見通しだって言われてるような気がした。
疲れた……。でも、最後の優ちゃんの完璧な胴で、なんだか少しすっきりした。
余計なものを削ぎ落して、美しく磨かれた刀剣みたいな優ちゃんの剣道には、人の心を洗い流すような力がある。
だから深月も優ちゃんの剣に魅せられたんだろう。優ちゃんを追いかけて高校を選ぶくらい。
かくいうあたしも、優ちゃんの剣道に魅了されたひとりだ。
でも深月とあたしの憧れは少し、意味合いが違う。
その違いがわかってるのはたぶん、あたしだけだと思った。