簡単に変わる、色を変える、染まっていく皆の心。

それはまるで……。


一瞬脳裏に浮かんだのは、あの日の光景だった。

残像の白、雨に濡れて淡く光る紫陽花。そして汚れてしまった、手紙。


気付いた時にはお手本のように美しい、見事な胴を決められていた。

脇をすり抜けていく優ちゃんの残身までもが、目が覚めるような美しさだった。



長く激しい地稽古が終わった時、まともに呼吸できなくなっていたあたしは板張りの床に倒れこんだ。

低い天井に設置されたライトをもろに見てしまって、目が痛い。


吸っても吸っても酸素が足りない気がする。肺のどこかに穴が開いていて、吸ったそばから酸素が漏れているんじゃないだろうか。



「こら、歩。礼がなってないぞ」


面をしたまま優ちゃんが上からのぞきこんでくる。

物見の隙間から見えた薄茶の目は、いつもの優し気なものに戻っていた。

竹刀を持っている時の、冷たく鋭い瞳も好きだけど、やっぱりいつもの柔らかい瞳がいちばん好きだ。


「大丈夫か?」

「うん……ごめんなさい。起きます」


差し出された手を遠慮なくとって、起き上がらせてもらう。