地稽古はボクシングのスパーリングみたいなものだ。実戦形式でひたすら打ち合う。師範や優ちゃんのような強い人に相手をしてもらえる貴重な練習。
それなのに全然集中できない。部活前の疲れと苛立ちを引きずったまま、稽古に臨んでしまったからか。
師範のいない日は優ちゃんの喝が始終響き渡る。主将で、いちばん強い優ちゃんが師範替わりになるからだ。
いつも優ちゃんはそういう役回りだ。自分も練習に集中したいだろうに、頼られて、みんなの世話をする。
嫌な顔ひとつしない。それが当然だというように、笑って引き受け、その上で自分のこともちゃんとしてる。それも自然に、まるで負担を感じることなく。
しっかり者で、責任感が強くて、頼りがいがあって、優しくて。
こんな完璧な人を、あたしは他に知らない。尊敬してる。大好きだ。ずっと一緒に剣道をやってたい。
変わらないこの気持ち。あたしの中でいちばん、大切なこと。
なんだか最近、それがおかしいと、言われ続けている気がしてイライラしていた。
「粗い! 力任せに打つな! 邪念を捨てろ!」
邪念って何? この気持ちは邪念なの?
優ちゃんもそう思う? あたしのこと、おかしいって。