「凛のやつ帰ったの?」
後ろから声がして振り返る。
「うん、あっさり行っちゃった……」
言葉を返せば「そっか」と、岸本くんが笑う。
凛くんが帰ってしまったせいか、廊下にファンの子たちの姿はなくなっていた。
この場にしがみついているのは私だけだった。
「まぁ、凛は中学のときに散々な目にあったからなー。去年の文化祭もサボってたし」
「なにかあったの?」
不思議に思って首を傾げる。
なんだろう、散々な目って。
すると岸本くんは、一度悩むそぶりを見せてから「花野井ちゃんになら言ってもいいか」と、頷いた。
「中学のときもこういうコスプレカフェみたいなやつやったんだけどさ、凛のやつイケメンだから、当日女の子たちにずっと囲まれて大変だったんだよね〜」
「へ、へぇ……」
岸本くんは軽く笑い飛ばしているが、女の子たちの壮絶な争いが容易に想像できる。
凛くんはその場に存在してるだけでかっこいいのに、執事服なんて着たら……………。
考えただけでもゾッとしてきた。



