「いいなぁ……」
相崎くんと楽しそうに歩く岸本くんを見ていたら、自然と言葉が溢れていた。
だって、幼なじみだったらそれを理由に近づくことができるから。
私は周りにいる女の子たちと違って、相崎くんに話しかける勇気がない。
教室に入って来る2人をいつも動かず眺めているだけ。
せっかく同じクラスなのに話したこともなければ、たぶん存在すら知られていないと思う。
「静香(しずか)も哀れだよねぇ、相崎なんかに惚れちゃってさ」
相崎くんをぼんやり見つめていた私に向かって、皐月が呆れて言葉を吐いた。
「あはは……自分でもそう思う…」
相崎くんを好きになってから、もうすぐで1年と半年。
入学式で相崎くんの姿を見てからというもの私、花野井静香(はなのいしずか)は彼の虜だ。
あの圧倒的な存在感を前にしたら最後、恋に落ちないわけがない。
だから、相崎くんに興味がない皐月は、極めて珍しい人種なのだ。



