「4時間目の調理実習までには戻って来いよー!凛の作るケーキ楽しみにしてんだからー!」
岸本くんが叫んでも凛くんが振り返ることはなかった。
「せっかく無理にでも連れて来たのに、サボり癖直んねーな」
やれやれと首を振りながら呆れる岸本くん。
凛くんがいなくなったとわかれば、ファンの子たちは一斉に解散していった。
「そういえば、岸本くんは授業サボったりしないよね」
「俺は凛と違って天才肌じゃないから、日頃の行いはちゃんとしてんの」
「真面目なんだ?」
「真面目って言うか当たり前じゃない?凛を基準にするのやめよーよ」
「あ、つい癖で」
会話の最後に苦笑い。
いくら幼なじみだからって四六時中一緒にいるわけないもんね。
普通の人は授業サボったりしないし、凛くんに合わせる必要もない。
授業に出なくても成績がいいのは凛くんみたいな天才肌の人だけ。
非の打ち所がなくて羨ましいな。
「ま、そんなことより教室入ろよ。俺らは真面目に授業受けなきゃだしさ」
「うん。そうだね」
最後にもう一度だけ廊下に視線を向けてから、凛くんのいない教室へと足を踏み入れた。



