極悪プリンスの恋愛事情



汗はダラダラ。

情けない格好のまま首だけ向けて「どうも……」とだけ言ってみる。

彼女たちは不敵な笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。


「花野井さん、ちょっといいかなぁ?」


甘ったるい声とは不釣り合いな悪人ヅラ。

だめですと言ったところでどうせ見逃してくれない。

仕方ないかと諦めて「何か用ですか?」と、大袈裟に首を傾げた。


「あなたさぁ、クリスマスに相崎くんとデートしたんだってね?楽しかった?」

「えっと、その…………はい」


ジリジリと詰められる距離。

立ち上がるタイミングを逃したせいで、私を見下ろす女の子たちの迫力が凄まじい。

いつ手を出されてもおかしくない状況だった。


「うわ、何その返事。超むかつく〜」

「どんな卑怯な手使ったのか知らないけど、抜け駆けすんなよ!」

「今後一切、相崎くんに関わんないで。私らの邪魔だから」


頭に響く怒鳴り声。

正直、怖すぎて今にも泣きそうだった。


この場凌ぎでもいいから「わかりました」って頷けば、少しは楽なんじゃないかと思うくらい限界ギリギリ。


初めてじゃないからこそ、歯向かったらどうなるかを知っている。

全部わかった上で、ゆっくりと口を開いた。