極悪プリンスの恋愛事情










「──────はい、何か飲むと落ち着くよ」


岸本くんに手渡されたのは、中庭に来る途中で買ったホットココア。

小さく「ありがとう」と返事をしてから一口喉の奥へと流し込む。


あったかい……。

彼の言う通り、ほんの少しだけ楽になったような気がした。



「で、何があったの?」


隣に座る岸本くんが容赦なく私に問いかける。

細く息を吐いてからゆっくりと口を開くことにした。


「…………凛くんが俺のことは諦めろって」

「え?」

「クリスマスデートは最後の思い出作りだって言われちゃった」



あの日を想うだけで胸が苦しくて張り裂けそうだった。

拒絶された記憶が頭にこびりついて離れてくれない。

まだこんなにも鮮明に残っているなんて。


「はぁ!?なんだよそれ!?凛のやつ、俺と花野井ちゃんのデートを邪魔しといて何やってんだか」


前髪をかき上げて眉間にしわを寄せる岸本くん。

こんなにも苛立っている姿を見るのは初めてだった。


「私、正直浮かれてたんだ。凛くんが振り向いてくれたんじゃないかって勘違いして………」


だから余計に辛かった。

あと少しで届くと思った途端に切り捨てられて、今より遠いところに落とされた。


それなら、告白する前のただ眺めていた頃の方がよっぽど幸せだったのに。


どうして、こんなことになっちゃったんだろう。