「凛くん!」
振り返って、疲れ切った喉で精一杯叫んだ。
聞こえているのかわからないけど、とにかく何か言わなきゃと焦った。
だけど、立ち止まることもなければ、こちらを振り返ることもない。
「まって、行かないで!」
次にそう言えたのは凛くんの姿が人混みに紛れた後。
走っても追いつけない。
どうしよう。凛くんが行っちゃう。
人混みを無理矢理かき分けて進んでも一向に距離が縮まらない。
あっという間に見失って、1人きりになってしまった。
「はぁ……はぁ……」
乱れた呼吸が苦しい。
動くのが嫌になって、行き場の失った視線を地面に落とす。
「なんでっ…………」
手のひらを力強く握りしめると爪先が深く食い込んだ。
行き場の失った感情を一体どこに向けたらいいんだろう。



