「何してんだよ、凛」
────あと数秒。
あと数秒、声が聞こえるのが遅かったらどうなっていたことか。
パチリと目を開くと、凛くんとの距離は既に遠くなっていて。
ドアの前に立つ岸本くんがやけに怖い顔をしていることに驚いた。
「俺がいない間に花野井ちゃんに手出すなんて反則」
「…は?別にそんなつもりねーよ」
「それって本心?」
「嘘はついてない」
「へぇ……そっか」
声のトーンはすごく落ち着いているのに、どこか不穏な空気を感じる2人の会話。
口を挟むべき状況でないことはすぐにわかった。
だから、そのままま動かず黙っていたのに。



