ジリリリリリリ...

甲高くなる目覚まし時計の音で目を覚ました。目覚ましを止め時間を見ると6時半。祖父母はもう起きているらしく1階から話し声が聞こえた。

「今日から学校か...」

ハンガーにかけてある新しい制服を着たあと,突然電話が鳴った。相手は...母。

「もしもし?母さん?」

「おはよう幸。今日からだったでしょ?学校。無理しない程度に勉強も付き合いも頑張りなさいね。...こんな母親みたいな事私にいう権利ないと思うけれど。」

少し早口で捲し立てる様に喋り"聞こえてる?"と電話中何度か確かめていた。聞こえているが相槌を打つ暇がなかっただけなのだが。

「大丈夫だよ。頑張るし...母さんも無理はしないでね。少しずつ、うん。っと、もう学校行く時間だから切るよ。」

早めに電話を終え朝食を済ませた後,部屋で鞄に教科書を入れたり,髪を整えてみたりしていると家のインターホンが鳴った。下に降りていくと玄関には僕と同じ森西の制服を着た学生が3人,立っていた。

「あぁ、幸ちゃん。今呼びに行こうとしてたのよ、クラスメイトで迎えに来てくれたんですって。」

「えっ...あ...わざわざありがとうございます。」

「はじめまして。支度は済んだ?時間はまだあるけれど...」

「あっ...いや、大丈夫。行ける。」

少し赤に近い茶髪の女生徒は腕時計を確認しながら

「じゃあ行きましょうか。」

と言った。
見ると3人共制服を着崩すこと無く着ていて真面目な感じがよく分かる。

「あ、自己紹介まだだったよね。僕は中島。中島 泪。よろしく」

黒い髪に黒縁メガネを掛けた男子生徒...中島泪が歩きながら手を差し出してきた。

「中島くん、よろしく。僕は...」

「知ってるわ。西川 幸でしょ?私は朝比奈 沙也加。よろしくね。」

僕が名前を言おうとしたのを遮って先ほどの茶髪の女生徒...朝比奈 沙也加が自己紹介をした。

「よろしく。朝比奈さん。あと...」

「あっ、私はっ...中島...黎です。」

先程から一言も喋っていなかった黒髪にショートカットの女生徒、中島 黎が少し気恥ずかしそうに言った。

「黎は人見知りなんだ。慣れてきたら目も合うし話も普通にできるようになるから。」

中島泪がフォローするように言い,中島黎の頭にポンッと軽く手を乗せた。

「あれ...2人とも中島なんだね?」

「あぁ、黎と僕は双子なんだよ。一応一卵性双生児。似てない?」

言われて見れば確かに目元や顔つきがそっくりだ。

「私は大丈夫だけど泪か黎は名前で呼んだ方がいいかもね。混乱しちゃうし」

朝比奈さんがいつの間にか少し前にいて振り返りアドバイスをくれた。

「確かにそうだね...じゃあ泪くんと黎さん...かな?」

「別に"くん"と"さん"付けなくていいよ?ね、黎、沙也加」

中島泪が2人に問いかけると2人とも頷いた。

「なら泪と黎と朝比奈...でいいかな」

「うん、距離縮まった感じする。じゃあ僕も幸って呼ぶよ。」

「苗字呼びって新鮮ね。この村では小さい頃から同じだからみんなそれぞれ名前で呼ぶもの。 」

朝比奈が後ろ歩きで少し手前を歩きながら笑った。

学校に着くと,僕は職員室へ行った。場所が分からなかったから泪に案内してもらって。

「お前が西川 幸か。東京からって聞いたから派手なヤツが来ると思ってたよ。じゃ、クラスに行くか。」

いかにも体育系って感じのジャージに短髪の男性教諭で僕の担任となる犀川 轟先生に案内されクラスへと向かった。

「ほい、ここがお前の新しいクラスだ。」

2年1組。と太い黒ペンで書かれた紙がドアの前に貼られていた。

「これなー、クラスが書かれてる表札が壊れちまってよ。替えが届くまでこれで代用してんだ。目立つだろ〜?」

犀川先生が笑いながらドアを開けると少人数のクラスメイトが見えた。ざっと見て...20人超えてるくらいだろう。

「ほらー!みんな席つけ。転校生が自己紹介出来ないだろー?」

犀川先生が大きな声で言うと全員ぞろぞろと席についた。

「よし、じゃあ西川。自己紹介していいぞ。」

「始めまして。西川 幸です。えっと...東京から来ました。よろしく...お願いします。」

転校なんて初めてで自己紹介の時になんと言えばいいか分からず心配だったが言い終えて頭を下げると全員が拍手で迎えてくれた。

「西川の席は後ろから2番目の空いてる席な。窓際の。」

「あ、はい。」

席に行こうとすると一番後ろの席が空いてることに気がついた。その席は全員から少し離された場所にあり,違和感があった。

「西川ー!お前、東京から来たってまじかよ!?芸能人とかと会えんの!?」

「ねぇねぇ!渋谷とかよく行ってたの?」

「ギャルとか多そうだよな!麻美みたいな!」

「は?うるさいな。アタシそこまで派手じゃないでしょ。ね、西川くん。」

鐘が鳴ると同時にクラスのほとんどの人が僕の席に集まってきた。

「そう...だね。芸能人はたまに見たことあるけど、住んでてもあったことない人もいるんじゃないかな...麻美...さんはそこまで派手じゃないと思うよ。スカートも皆と変わらない丈だし。」

「ほらー!アタシはギャルじゃない。」

麻美は少しふくれっ面で先程ギャルと言っていた男子生徒を睨んだ。

「悪かったって。この学校じゃ派手だからそう思ったんだよ。あ、俺は林田 慎太郎。よろしくな!西川!」

麻美に睨まれていた男子生徒、林田慎太郎はそう言うと手を差し出してきた。僕も手を伸ばし握手をした。

「派手さならアンタも負けてないでしょ。その髪色、怒られなかったわけー?」

麻美は林田の髪を軽めに引っ張った。
確かに麻美は茶髪で林田は金髪。派手さなら負けてない。

「カッコイイだろ?婆ちゃんには褒められたな!かっけぇって!お袋は怒ってたけど。父さんはなんも言わなかった。」

「アンタんとこのお婆ちゃんアンタに甘いわよね。」

「へっへー!あ、幸、今日一緒に帰ろうぜ!近くを案内してやるよ!」

「あ、アタシもいい?こいつ案内するとか言ってるけど方向音痴だから。迷っちゃうかもだし」

麻美はからかうように笑った。
林田は...いつの間にか呼び方が変わっている。

「ありがとう。じゃあ頼もうかな」

「「任せて!」」

麻美と林田が被ると二人して爆笑しだした。

「2人とも仲いいんだね。ハモるほど」

「まぁ幼なじみだしね。コイツとは家も隣同士なんだ。昔からこいつとばっか遊んでたんだよアタシ」

正直,羨ましいと思った。僕は幼なじみは居なかったし,友達も向こうでは1人しかいなかった。


放課後になり林田と麻美と学校を出た。

「そういえば、アタシ自己紹介まだだっけ?今更だけど、川内 麻美。改めてよろしくね」

「よろしく,川内さん。」

「アタシ麻美でいいよ?苗字呼び慣れてないし。」

「あ、俺も俺も!慎太郎でいいぜ!」

「じゃあ麻美と慎太郎...ね。」

朝も似たようなやり取りをしたなぁ...と思いつつ2人に従って歩いていると昨日来た海が見えた。

「ん、あそこ行きてぇの?」

「あ、昨日来たなって。海が綺麗だよね。」

「そうか?じゃ、あっち行く?」

「ちょっと。止めた方がいいんじゃない?だってあそこって...」

「この時間帯なら少しは大丈夫だろ。」

「...何かあるの?無理なら大丈夫だけど。」

「無理っていうか...まぁ少しなら大丈夫かな。」

麻美が少しテンションを落とし,周りを気にし始めた。慎太郎はお構い無しに海への方へ行った。