「ちょうど10年前の今日、つまりクリスマス・イブだな。俺たち、そのときはまだ6歳だっただろ? サンタさんの正体を確かめようと、寝ないで玄関口で待ってたんだ」


トモキは昔の記憶をたどるように、自分の中で整理するように、ひどくたどたどしく話し出す。


「俺の家、朝起きてみたら枕元にプレゼントが! とか、そういうイベントなかったんだ。友達はみんな、プレゼント貰ってんのにさ。どう控えめに言ってもいい子とは言えないような悪ガキのところにもだぜ? すっげー悔しかったし、悲しかったんだよな。 だから、玄関口で待ってればさ、布団にくるまって寝てるより、サンタさんが来てくれるような気がしたんだ。サンタは煙突から入って来るって歌があるけどさ、俺の家、そんな豪勢なもんついてない、ただの借家だからさ、絶対玄関から入って来るって思ってたんだ」


わたしは、ペースを変えずに歩き続けるトモキの横顔を盗み見ながら、トモキの小さい頃を想像する。


サンタの来ない家。何もない枕元。寒空の中、今まで来たためしのないサンタを待ち続けるトモキ。


どんな気持ちで、待っていたんだろう。


「玄関でじっとしてるうちにさ、俺、寝ちゃったみたいでさ。目の前のドアから物音が聞こえてくるから慌てて飛び起きたんだ。俺、外にいるのは絶対サンタさんだと思って舞い上がっちゃってさ、急いで鍵を開けてドアを開けたんだ。
そしたら、サンタの衣装とは似ても似つかないような地味な格好したおっさんだったんだ。白いひげも生えてなかったしな。
でも、人間、見ためで判断しちゃいけないって言うだろ? だから、おじさんはサンタさんですかって聞いたんだよ」