黒が好きになる前は、他の子みたいに パステルカラーが好きだったのかもしれない。 ピンクとか、水色とか。 だけどそんなの、もう覚えていないや。 クレヨンも色鉛筆も。それから絵の具も。 黒の減りだけが、やけに、はやかった。 「莉音(りおん)ちゃん。なに描いてるの?」 「サンタさん」 「サンタさんは、こっちでしょ?」 赤いクレヨンを先生から渡されたとき、きまって幼いわたしはこう答えた。 「ホンモノのサンタさんは黒いんだよ」