「ジンさんが用意してくれてたんでしょ?」
俺は知らないが。
そう勘違いしたということは、そのチケットは、うちにあったのか。
まさか。アマリの仕業か?
勝手にそんなもん仕込みやがって。
俺とステージを見に来いって魂胆か……。
なに考えてやんのアイツ。
仕事でもなきゃお前のLIVEなんて見ねぇよ。
「帰れ」
「でも……」
「いいから、帰れ」
「わかりました」
莉音が背を向けて歩いていく。
「あんな言い方、可哀想じゃないスか」
「は?」
「せめて駅まで送ってあげたらどうっスか」
「仕事中だ」
「Xがいるかもしれないんですよ。このあたりには」
それはない。気配がないから。なにより、ここに居られるのが一番心配だ。
「……大丈夫だろ」
大丈夫だろ、という言葉は自分自身に言い聞かせていた。
ほんとは家まで送ってやりたい。
誰も入れない、結界の張られた空間にでも、閉じ込めてしまいたい。
アイツのこと隔離したい。
それくらいには、莉音を自由に出歩かせたくない。
だけどそんなことできるわけない。


