朝日の眩しさで目を覚ますと、いつもの癖で携帯を手に取る。午前九時、いつもより少し遅い起床。ベッドに横たわったまま目一杯伸びをした。


「そうだ」


携帯の画面を表示させ、着信履歴を確認する。そこには確かに、登録されていない番号の着信履歴が残っていた。昨日の出来事は夢ではなかった。だとすると、午前十一時に駅前に待ち合わせだったはずだ。彼女はそろそろ準備を始めているのだろうか。あの緊張具合だと、もしかしたら夜は眠れなかったかもしれない。どんな服装で行くのだろうか。僕はたった一度相談にのっただけなのに、勝手に恋のキューピットになったような気持ちで彼女の恋が上手くいくことを願っていた。




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その夜のことだった。昨日とおおよそ同じ午後十時半頃。あの携帯番号から電話がかかってきた。


「もしもし、深澤です。」


今日は楽しく過ごせたのだろう。彼女の声がころころと弾んでいた。僕の予想は大当たりで、今日の親睦会は楽しく過ごせたとお礼の電話だった。大したアドバイスも出来なかった僕に、彼女は大変助かったと言う。


「いえ、本当に大したことは…。楽しく過ごせたなら良かったです。」

「…あの。」

「はい。」

「…もし先輩が大丈夫であれば、これからも相談に乗って欲しいと思って…。」


たった一回と言い出したのも私だとわかっている。だけど、今知っている情報以外は聞かない。絶対会いたいとも言わない。先輩が怪しいと思う行動や、発言もしない。だから、ただこうやって電話で相談にのって欲しいと彼女は言う。どうしてだろうか。普段の僕なら絶対にこんな話にはのったりしないはずなのに、やっぱり彼女の真っ直ぐな声に不信感なんて一つもなくて、僕の心の中は素直に応援してみたいという気持ちだけだった。


「僕で良ければ。」


そして、その日から僕と彼女の不思議な関係が始まった。