ベッドに寝転がり、うつらうつらとしていたところに突然、携帯が鳴り響いた。


「もしもし、深澤(ふかざわ)です。」


携帯の画面に表示された情報を確認することなく電話に出た僕は、聞き慣れない彼女の声で目が覚めた。誰だ。慌てて起き上がり画面を見ると名前の表記は無く、携帯番号だけが表示されていた。…しまった、知らない番号の電話に出てしまった。上手く回らない頭でどうしようかと悩む時間が、彼女と僕を気まずい雰囲気にしていく。


「ごめんなさい。“さく先輩”の携帯じゃないみたいですね。」


緊張しているのか強張った声で彼女が沈黙を破った。ふいに、呼ばれた愛称に思わず条件反射で返事をしてしまう。


「はい」
「やっぱり、違ったみたですね。すみません。」


いや、そうじゃなくて。どうして僕の名前を、と今にも電話を切ってしまいそうな彼女に問いかけた。一体、誰だ。何故僕の番号を知っているのか、何故僕の名前を知っているのか、疑問だけが増えていく。冷や汗が止まらなくなり、携帯を持つ手が震えた。誰だ、誰だ、誰だ。僕が混乱していることを察した彼女が口を開いた。


「昨日、先輩が教えてくれました。覚えてないですか?」


昨日はいつも通りに授業を受けて、部活をこなし、いつもと同じ時間に帰宅した。特別かわったことは無いし、知らない女子に番号を教えてもいない。


「帰りに教えてくれましたよね。明日、一緒に親睦会に行こうって」


僕の知らない僕の情報が、素性も知らない彼女から次々と出てくるたびに僕は更に混乱したが…


「さく先輩ですよね?さくら そうた。」


どうやら人違いだったらしい。今までに感じたことのなかった恐怖が勘違いだと分かったと同時に、肩の力が抜け大きなため息が出た。


「すみません。僕は、さくらさんではないです。いつも、“さく先輩”って後輩から呼ばれてるから、つい返事をしてしまった上に、自分のことだと思ってしまいました。」

「あ、じゃあ…私、間違い電話ですよね。すみません。」

「そうみたいですね。」


本当にすみません、ともう一度繰り返した後、彼女はそれではと残し電話を切った。僕は再びベッドに倒れこみ、天井を見つめながらついさっき自身に起こった不思議な間違い電話を思い出していた。こんな不思議なことは二度とないと思った束の間、再び携帯が震え、彼女、深澤さんの携帯番号が表示された。