影と闇

再び胸を撫でおろす。


「なんだ、予報のことか。たしかに昨日のニュースでやってた天気コーナーで当日の天気が雨になるって言ってたけど大はずれね。でも降水確率が60%だったから私も傘は持ってきたんだよね」


ニカッと歯を見せたあと、ブランドもののボストンバッグから折りたたみ傘を見せる蘭子。


見ただけで高そうな感じの、リボンとレースがついた赤い傘。


普通に傘としても使えそうだけど、日傘としても役に立ちそうな感じがする。


それにしてもよかった。


心の中でつぶやいていたことが蘭子にバレなくて。


バレないように息を小さく吐いたそのとき、バスの中に誰かが入ってきた。


いや、誰かなんてもうわかる。


私服姿の末那が、私のほうを見もせずに重い足取りで奥へと歩いていた。


表情はいつもと違ってびっくりしたけど、一番びっくりしたのは末那の服装だった。


数日前に誘われたときは自分にピッタリの可愛い感じの服を着ていたのに、視界に映る末那の格好はアイロンをかけてないシワシワな服だ。


服屋に行こうと私を誘って『どんな服着ていこうかな〜』と鼻歌混じりに言っていた張本人の格好が、まさかのシワシワな服。


呆然として見つめる私をスルーして、一番うしろの席に座る末那。


末那の異常に、バスに乗ってるほとんどのクラスメイトが気づいてコソコソと話す。